第１７回公演

喫茶店で何も考えずにコーヒーを飲む時間に最上の幸せを感じる。
窓際のテーブルで手を握りながら愛を語らうカップルは微笑ましく、
奥のカウンターでひじをぶつけながら罵りあう老夫婦にハラハラする。
そんな時間がこのうえなく幸せだ。

ただ、僕は知らなかった。
窓際の二人のカバンの中で、 携帯電話が別の男と女の着信を続けていること。
老夫婦のケンカの原因が、昨日生まれた孫の名前の決め方であること。
でも、それは知らなくても、想像できなくてもいい。
知ってしまい、あるいは想像できてしまうと、 ここでコーヒーを飲む時間に 最上の幸せを感じる自分に疑問を持ち始めてしまうから。

「幸せ？」

その質問は心のなかにしまっておいてほしい。
問われた人は、答えを考え始めた瞬間から我が身の不幸を探し始める。
幸せについて考えない時間に幸せがある。
そんな僕を誰かが不幸だと言った。
幸福に関する三つのお話。

episodeⅠ　
　 　　青い焼き鳥
episodeⅡ　　 　
　　 　幸福の王子の野球拳
episodeⅢ　　 　
　　 　私よりもほんの少しだけあなたが幸せであるということ